徘句
春之句
出でわれも今日はまぢらむ春の山
青みたるなかに辛夷の花ざかり
世の中は桜の花になりにけり
この宮や辛夷の花に散る桜
同じくば花の下にて一とよ寝む
散る桜残る桜も散る桜
夏之句
かきつばた我れこの亭に酔ひにけり
手もたゆくあふぐ扇の置きどころ
昼顔やどちらの露の情やら
秋之句
我が恋は瓢で泥鰌を押す如し
盗人に取り残されし窓の月
悠然と草の枕に秋の庵
いざさらば我も帰らむ秋の暮
行く秋の哀れを誰に語らまし
裏を見せ表を見せて散る紅葉
冬之句
木枯を馬上ににらむ男かな
疑ふな六出の花も法の色
鉢叩き鉢叩き昔も今も鉢叩き
无季之句
倒るれば倒るるままの庭の草
来ては打ち行きては叩く夜もすがら
和歌
浜風よ心して吹け千早振る神の社に宿りせし夜は
草枕夜ごとに変わる宿りにも結ぶは同じ古里の夢
手折り来し花の色香は薄くともあはれみ給え心ばかりは
伊勢の海浪静かなる春に来て昔の事を聞かましものを
古里へ行く人あらば言伝てむ今日近江路を我越えにきと
世の中に門さしたりと見ゆれどもなども思ひの絶ゆることなき
うかうかと浮き世を渡る身にしあればよしやいうとも人は浮きよめ
山吹の千重を八千重にかさぬとも此一と花の一重にしかず
大方のよを六つまじ九渡りなば十に一つも不足なからん
小正月祝ふ小松の七五三丑につけこむ十分の福
さすたけの君が贈りし新毬をつきて数へてこの日暮らしつ
世の中に同じ心の人もがな草の庵に一夜語らむ
夕風に露はこぼれて花薄乱るる方に月ぞいざよふ
山里の冬の寂しさなかりせば何をか君が饗草にせむ
山かげの岩間を伝ふ苔水のかすかに我はすみわたるかも
天も水も一つに見ゆる海の上に浮きて見ゆるは佐渡の島かも
何づこにも替へ国すれど我心国上の里にまさるとこなし
濁る世を澄めとも言はずわがなりに澄まして見する谷川の水
出づる息また入る息は世の中の尽きせぬことのためしとを知れ
名よ竹の葉したなる身は等閑にいざ暮さまし一日一日を
見ても知れいずれこの世は常ならむ後れ先だつ花も残らず
何ゆへに我身は家を出しぞと心に染よ墨染の袖
浮雲の待事も無き身にしあれば風の心に任すベらなり
捨てし身をいかにと問はば久方の雨降らば降れ風吹かば吹け
思へ君心慰む月花も積もれば人の老となるもの
妙なるや御法の言に及ばねばもて来て説かん山のくちなし
僧は唯万事はいらず常不軽菩薩の行ぞ殊勝なりける
年月は行きかもするに老いらくの来れば行かずに何つもるらむ
鉢の子に菫たんぽぽこき混ぜて三世の仏に奉りてな
春くれば木木のこずへに花は咲けども紅葉ばの過ぎにし子等は帰らざりけり
久方の長閑き空に酔ひ伏せば夢も妙なり花の木の下
秋の夜は長しと言へどさすたけの君と語れば短くもあるか
墨染めの我が衣手のゆたにありせばあしびきの山のもみぢを覆はましもの
いかにして誠の道にかなひなむ千歳のうちにひと日なりとも
夢の世に亦夢結ぶ旅の宿寝覚淋しふ物や思わる
現し身の現心のやまぬかも生まれぬ先に渡しにし身を
かれこれと何あげつらむ世の中は一つの珠の影と知らずて
如月に雪の隙なく降ることはたまたま来ます君をやらじと
諸人のかこつ思ひをとめ置きて己一人に知らしめんとか
うちつけに死なば死なずて永らへてかかる憂き目を見るがわびしさ
形見とて何か残さむ春は花山ほととぎす秋はもみぢ葉
明日よりの後のよすがはいさ知らず今日の一と日は酔ひにけらしも
墨染の我が衣手のゆたならばまどしき民を覆はましもの
法の道まこと分かたむ西東行くも帰るも波に任せて
形さへ色さへ名さへ文さへにこの世のものと思もはれなくに
それは蓑これは笠とて除け見ればあとの案山子は何かなるらむ
与贞心尼唱和歌作
ゆめの世にかつまどろみて夢をまた語るも夢よそれがまにまに
心さへ変はらざりせば這ふ蔦の絶えず向かはむ千代も八千代も
天が下に満つる玉より黄金より春の初めの君が訪れ
霊山の釈迦のみ前に契りてしことな忘れそ世はへだつとも
いついつと待ちにし人は来たりけり今は相見て何か思はむ
武蔵野の草葉の露の永らへてながらへ果つる身にしあらねば
向ひゐて千代も八千代も見てしがな空行く月のこと問はずとも(贞心尼)
生き死にの界離れて住む身にもさらぬ別れのあるぞ悲しき(贞心尼)
汉诗
余将还乡至伊登悲驾波不预寓居于客舍闻雨凄然有作
一衣一钵裁随身 强扶病身坐烧香
一夜萧萧幽窗雨 惹得十年逆旅情
少小学文懒为儒 少年参禅不传灯
今结草庵为宫守 半似社人半似僧
老朽梦易觉 觉来在空堂
堂上一盏灯 挑尽冬夜长